「ひとんちで騒ぐな」

「ひとんちで騒ぐな」(万能グローブガラパゴスダイナモス) 9月7~9日、福岡市・西鉄ホール

 

 2008年に初演した劇団初期代表作の再演。作・演出の川口大樹がフライヤーに「これ以降に書いたいくつもの劇の根元にはこの『ひとんちで騒ぐな』があるような気さえしています」と記しているとおり、これぞガラパ、と感じさせるシチュエーションコメディーだ。

 率直に楽しく110分間が瞬く間に過ぎた。上京して役者になる夢がかなわず映像制作会社でADをしている青年が番組の地方ロケのスタッフとして久しぶりに帰郷する。すでに他人の所有になっていることを知らず上がり込んだ旧実家に、様々な事情を抱える人間たちが偶然集まる。町長選に立候補するか迷い続けている男、二股をかけている男2人が鉢合わせして慌てる女、青年を将来のスターと誤解している女……。すれ違い、交錯、衝突を重ねながら、玄関や勝手口を巧みに利用して出たり入ったりの鬼ごっこやかくれんぼのようなドタバタが展開する。隠れた者たちと捜す者たちで織りなす押し入れのふすまを使った演出が面白い。

 大騒動の根幹にあるのは、青年が役者になれずADとなった現在の自分を恥だと思っていることだ。学生時代にリーダー的存在だった自分の「おちぶれた姿」を郷里の知人たちに見せたくないと必死に取り繕うのである。ガラパの芝居によく出てくる自分本位の群像が、短期的な自分の利益のために、うそをつき、騙しあい、取り繕い、見えをはる。薄いベールが剥がれ落ちないようにジタバタもがくのだが、事実が露わになる過程のハラハラ感が巧みに笑いに転化される。

 初演時はひたすら楽しいドタバタ劇だったとの記憶がある。今回はコメディーの果てに、人間は今の自分を率直に受け入れてこそ前に進める、とのテーマ性が強く表現された印象が強い。終盤の「かっこわるいことをかっこわるいと思うことが、かっこわるい」のセリフが十分に生きて観客の胸に刺さってきた。人生経験を蓄積した演出家の心情の表れか、あるいは劇団として成熟してきたのか。劇団の根っこにあるともいえる作品の再演でなにごとかを確認したであろう。ガラパ作品が今後どのように展開していくのか非常に楽しみである。

 役者陣では風呂上りの設定で大半を上半身裸で演じた土居祥平のとぼけっぷりに味わいがあった。青年AD役は古賀駿作で、他に主宰の椎木樹人、千代田佑李らが出演。(臼山誠)

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 10月2日にはユネイテッド・シネマキャナルシティ13(福岡市)で上記公演の舞台映像の上映会も行った。映像が映画館の大画面に映し出されると、アップや芝居の勘所に焦点を当てたシーンなどで、演劇本番を見たときに気づかなかった細やかな俳優の表情や動き、隅々まで工夫、配慮された小道具の妙に気づかされ新鮮だった。カメラワークを駆使し編集した舞台映像を作品として公開するのは劇団新感線のゲキ×シネなどが知られるが、九州の劇団としては珍しい試みだろう。劇団として今後もこのような新しい試みに挑戦していくそうだ。