「三途の川のクチコミ」

「三途の川のクチコミ」(万能グローブガラパゴスダイナモス) 3月13~17日 福岡市・市美術館ミュージアムホール

 

 スマホSNSなど便利で効率的な物や情報があふれている現代社会は、実は本来の人間にとっては異様な社会なのではないか、との疑問を提示する。そのため芝居の舞台を三途の川や地獄で働く鬼たちの社会に設定したところに、作・演出である川口大樹のクールさを感じる。笑いどころが随所にあるコメディーであることは従来通りであるが、物語の構築に一味違う感のあるガラパ作品を味わえた。面白かった。

 古来の純朴さと恐ろしさで地獄へ落ちた人間たちを痛めつける鬼たちの社会に、もしも人間たちが現代社会の文明の機器を浸潤させていったどうなるのか。もともと立派な鬼たるものは、人間にとって恐ろしい存在であることが必須条件であった。しかし、ネット上にあふれかえるクチコミ点数を気にする者たちが増殖し、鬼社会で尊敬されてきた姿勢や態度は過去の遺物とされ、寛大さが求められるようになる。地獄の恐ろしさが緩和され、さらには公平厳密であった閻魔大王すらネット民たちの評価や炎上を恐れて地獄に落ちるべき人間たちをも天国へ送り込むようになってしまう。純朴な鬼たちにとっての穏やかな日常が崩壊し、芝居上鬼たちと密接な関係にあった麗しい天女の世界もすさんでいく。効率や自己利益ばかりを求め続ける愚かな社会に変容していくさまが表現される。

 欲しい物を思い浮かべるとすぐに届けてくれるその名も人間(澤栁省吾)の存在が面白い。一義的には、ネットで注文すると速攻で荷物が届くアマゾンやフリマアプリのメルカリなどを連想させる。だがそれ以上に世界中を侵食し人々を合理化や効率化、功利性重視の精神へ加速度的に変容させている資本主義なるものの擬人化だと捉えても間違いではないように思う。人間が近代に生み出した資本主義の合理性、市場価値重視の信条のもとついには社会を変容し、一人ひとりの人間性を変質させ隷従させていく。その流れの中で現実的にうまく立ち回る人間が評価される社会へとすでになってしまっている。芝居の終盤にあったようにこの「現実」を一度リセットするくらいに対抗できる思想や哲学が必要なのではないか。おそらく川口にはそのような意識が存在する。笑いとともに深い思索にいざなわれる作品だった。

 すっとぼけた役回りの天女(石井実可子)、店の効率化に振り回される料理屋の大将鬼(椎木樹人)らの演技がアクセントになっていた。今月27~31日には東京でも公演する。(臼山誠)