「愛の讃歌」

愛の讃歌」(劇団go to) 3月1,2日 福岡県春日市・市ふれあい文化センター

 

 母から娘へ、またその娘へ、さらにはまたその娘へと受け継がれていく一枚の着物を巡って、4代にわたる3組の母娘の心の行き来を描く二人芝居。貧困から心中を図ろうとした母へのわだかまり、弟ばかりを大切に思っているようにみえる母へのうとましさ、祖母を大切にしないように感じる母へのいらだち……。

 娘の側からの視点ではそのようにみえるのだが、自身が母親になり、老い、認知症の要素が加わっていくうちに観客の視線は母親の立場の視線に移ろい、自分の心が娘に理解してもらえない母親のやるせなさと、心の底では強い母娘愛でつながっているさまが強く伝わってくる。

 6年前に観劇した公演(福岡市・あじびホール)とはステージの大きさの違いもあり、脚本や演出はある程度かわっているのかもしれない。しかし、女性同士である母娘の心の動き、葛藤、愛情というものをしっとり表現する作・演出の後藤香の生み出す舞台世界は変わらず強靭であり、木内里美と後藤の息の合った熟練の演技が観る者を引き付ける。

 昭和の戦後まもなくから令和の現代までオムニバスのように時間が行き来する構成。いつの間にか役柄が変化している演出、複数の役柄を即座に演じ分ける演技、コメディータッチの場面などもあるが、木内と後藤がそれぞれ舞台上で実際に一人で着物の着付をするクライマックスにはとくに魅入った。土曜夕の回を観劇したが、惜しむらくは客席に空席が目立ったこと。多くの人に観てほしい佳作である。(臼山誠)