「運動会をやりたくない」

「運動会をやりたくない」(万能グローブガラパゴスダイナモス) 

                       3月2~5日 福岡市・ぽんプラザホール

 

 世間にはびこるうすら寒い人間関係をコメディーに包み込んで表現し、我々現代人の利己性をあぶりだす。脚本・演出の川口大樹の視線は、人間たちの心のうちにうごめく欲望や残酷さといったものとの対峙を深めているように感じる。周囲の友人や同僚たちの言動を見えるまま聞こえるまま信じてよいのか、当人にとっての利用価値が自分に対する振る舞いにつながっているのではないのか、逆もまたしかりではないか、観劇しながらそんな問いさえ湧き上がってきた。

 本作はコメディーとして十分に面白い仕上がりになっている。地域の運動会を巡って、衰退した商店街の店主や従業員たちが右往左往する物語。運動会というイベントを街の活性化につなげようと徐々に一致団結していく様子を描くのだが、各人の根底にある思惑はバラバラだ。仲間たちを自身のフォロワーを増やす手段として利用する者、目的のためにSNS上で若い女性になりすまし男心をもてあそぶ者、女性にもてたい欲望から他人の事実を暴露して裏切る者……。だが、自分の行いに道徳的罪悪感を覚える者はいない。狭い仲間内に潜む、私利私欲に満ちた複雑な関係性。そこに気づかないことでかろうじて保たれているチームワークがいつ破綻するのかを、観客はハラハラしながら楽しむ。

 様々な設定はコメディーの度合いを強めるための仕掛けではある。だが、冷静に咀嚼すると、芝居の中の彼らは、合理的で功利的な価値を優先する空気に数十年以上かけて浸潤され続けてきた我々自身をデフォルメした姿であることに気づかされる。

 金曜夜の小劇場は満席で、しばしば笑いに包まれた。みなマスクを着用したままで。春を迎え、ようやく新型コロナの感染が落ち着いてきた中、九州の演劇界も活気を取り戻してきているようだ。これからの展開が楽しみだ。(臼山誠)