「トピカぺニア」

「トピカぺニア」(FOURTEEN PLUS 14+) 8月5~9日、福岡市・ぽんプラザホール

 

 FOURTEEN PLUSではこれまで、家族や個人の過去の記憶と対峙する人間を描く作品が特に印象に残っている。現在は過去と切り離せないという当たり前だが重要なことを改めて確認させられるのだ。今作も若い女性が絶縁した母親の記憶にさいなまれつつ、その記憶と正面から渡り合い、心の傷を癒していく物語だった。

 昨年の安倍首相銃撃事件の山上容疑者をヒントにしていた。旧統一教会を連想させる宗教の熱心な信者である母親は宗教団体の指示に懸命に従い金をつぎ込む。ついに家計が破綻し、大学を中退せざるを得なくなった女性。母親と妹との関係を絶ち、なんとか就職先を見つけて前向きに生きていこうとするが、しばしばフラッシュバックする母親の記憶にさいなまれる姿をうまく描いている。女性の心を覆う影、あるいは心にこびりついて離れないしみのようにほぼ舞台に出ずっぱりの母親役、原岡梨絵子の円熟味が作品の味わいを濃くしていた。

 並行して新型コロナの初期対応などここ数年の社会事象に対する批評的要素が散りばめられていたが、作・演出の中嶋さとの特に強い問題意識は、組織の経済的利益の前に、法律や社会規範、個人の常識的な疑問といったものが背景化してしまいがちな現代社会の危うさについてだろう。

 女性の職場は、カビを使った食品や化粧品などを開発する研究所だ。実験が失敗し、有害化したカビの胞子が研究所内に付着、染み込み、腫れや痛みを発症する者が出たところから話が転がっていく。公的機関に報告し検証すべきだと主張する者、研究の過程ではこの程度の事例は普通であると報告に反対する者、リコールに発展すれば多額の経費が必要になるため<拙速に>報告するのは企業の利益に反すると説得する者。

 最近のビッグモーターの事件をみてもわかるように、組織の風土に馴染んでしまうと、それがたとえ異様な価値基準に基づくものであったとしても、働く者たちは違和を感じなくなってしまう。芝居では思い切って正論を述べた女性の職場内での孤立を暗示させる幕切れが効果的だった。終盤、ビッグモーターで話題の除草剤というワードが出てきたのには思わず笑ってしまった。

 登場人物8人のうち半数がダブルキャストで、雪丸朋美、佐藤柚葉らが出演するチームグリーンバージョンを観劇。9月1、2日には韓国・釜山でも公演する。(臼山誠)