「2022」

「2022」(飛ぶ劇場) 111012日、J:COM北九州芸術劇場 

 

 歴史的に俯瞰すると昨年の2022年はどんな1年であったのか。同時代人として読み取れないか。もし、2022年が歴史を画する分岐点であることが読み取れるならば、より良き未来へ向けて、もしくは未来の悲劇を防ぐために私たちは一人ひとりがなんらかの選択や行動ができるのではないか。 

 作、演出の泊篤志がそのために用意した仕掛けは、ネット上で話題になった「未来人」による予言の手法。2062年から来た男(木村健二)を芝居に登場させる。確かに今現在の状況を考察するために数十年先に基点を設けるのは有効な手段だ。論理的な分析と推測で未来のありようを想定し、そこに到達する歴史のうえで現在はいかなる過程として位置づけられるのか。 

 昨年は安倍元首相暗殺や旧統一教会問題、ウクライナ戦争勃発、急激な円安、安保三文書改定、コロナ禍の長期化など不穏な意味で多くの事柄が印象に残る1年だった。物語の舞台は、そんな固い問題意識とはかけ離れた場所に見えるコンカフェ(コンセプトカフェ)。店のキャストでアイドルとして働く女性3人と客たちとの掛け合いのうちに、自分たちの日常の暮らしにも国内外の諸問題の影響を受けた物価高などの事象が起こっていることが徐々に浮き彫りになっていく。実はカフェの新人アイドル(徳岡希和)は未来の世界規模の悲劇を防ぐ働きをする可能性をもった人材の一人であり、悲劇防止の使命を帯びて未来から来た男が客として彼女に接触、人生のとある選択をするように導いていく。 

 ウクライナ戦争は、ウクライナに武器を供与する欧米諸国とロシアによる戦争であり、実質的に第3次世界大戦は始まっていると主張する論者がいる。本作でもこの主張を取り入れ、2022年は世界大戦の始まった年として世界史に刻まれるのだとされる。現在進行中のイスラエルのガザ侵攻も世界大戦の一環だとして男は予言する。私たちはハマスのミサイル攻撃とそれに続くイスラエル軍の無差別殺戮の報道に今まさに接している。旧約聖書に描かれたパレスチナの地の戦争と殺戮、ユダヤ教徒と異教徒の憎しみの連鎖と同じことが繰り返されていることを目の当たりにし、数千年の昔から人間の性、愚かさが変わっていないことに愕然とせざるを得ない。 

 この作品で、世界規模の悲劇を経験した後の2062年には人間は政治を放棄しAIの指示によって平穏な生活を送っていると語られる。AIに支配されるSF的な未来は空恐ろしくもあるが、上記のように人間の愚かさが克服しようのないものであるとすれば、ありうる未来像に思えてくるからさらにゾッとする。 

 だが泊は人間への希望を捨てない。登場人物たちはラストで、一人ひとりしっかり幸せを求めて人生を歩んでいくことを決める。時代の潮流や社会の風潮、あるいは組織や宗教の論理に流されず、自分自身と向き合い地に足をつけて人生を歩んでいく個人が増加することで、歴史は穏やかな方向へ動いていく。そんな思索がこの芝居に込められているように思う。他に佐藤恵美香、葉山太司らが出演。121617日には長崎でも公演する。(臼山誠)