「陽のあたる場所へ」

天神ビッグ・バン!バン!バン!bom.8地下鉄七隈線延伸開業スペシャル「陽のあたる場所へ」(ギンギラ太陽's) 6月5~8日、福岡市・天神劇場

 

 福岡市地下鉄七隈線の博多までの延伸や商業ビル「ミーナ天神」のリニューアルオープンなど最近の福岡の町の動きを中心に題材にした時事的短編集。小品6本に流通や交通の話題をギュッと凝縮した。全体を通しての主役は延伸で日の目を見ることになった七隈線なのだが、冒頭の作品が特に印象に残った。福岡空港の「門限」に間に合わなかったJAL機の羽田空港への引き返し(今年2月)、北九州空港を試験飛行の拠点とするはずだった国産ジェット機の開発断念(同)といったニュースに、北九州出身の漫画家松本零士氏の訃報(同)などを絡め、笑いの中にしみじみとした人情を醸し出した。

 言うまでもないがギンギラのユニークさは、関係者の心情やその歴史の丁寧な取材を基に擬人化した商業ビル、乗り物などのキャラクターにある。デフォルメした演出やセリフ、被り物などによって、地元の人々たちが町や公共交通のありように対して薄々抱いているであろう潜在意識を刺激する。テーマの性質上、どうしても説明調になりがちなところを、うんちく臭くなり過ぎずに起伏に富んだ一つのストーリーに練り上げて観客を芝居の中に引き込む。観劇後に町に出ると、本来無機質のビル群が、血の通った温かい肉体を伴って生き生きとしているかのような感覚が確かに沸き起こってくるのだ。現在進行形の天神の話題を当の天神で上演する意味はそこにもあるだろう。新生「ミーナ天神」や「天神ビジネスセンター」などのキャラクターが登場したが、作品を重ねてどのようなキャラに成長していくかも楽しみだ。

 ギンギラの特徴の一つは、福岡の町を応援しつつ、行政や経済界、企業の論理に一定の距離を置き、一住民としての立ち位置からの批評性を帯びた作風だといっていい。今作は、ネットショッピングの攻勢に対してリアルな町のにぎわいを守るため天神と博多の商業ビルたちが協力して立ち向かっていこうとするシーンで終わった。これは作・演出の大塚ムネトの主張であろう。一方、ネットショッピングに当たり前のように親しんでいるのも、郊外の大型ショッピングモールへ魅力を感じてしばしば出かけるのも観客を含む我々市民であり、そういった人々を含めて福岡という町がある。福博都心域を核に福岡の町を描いてきた大塚が、天神ビッグバンで大きく変貌する福岡の町と激しくIT化する社会の潮流を、今後どう咀嚼し表現していくのかも興味深い。

 豊かな表情でタフな演技も軽やかに演じる女優陣が光った。また、遠慮がちではあるが、観客を舞台に上げたりいじったりする演出が復活し、コロナ明けが間近であることを感じさせた。出演は大塚のほか、上田裕子、宗真樹子ら。(臼山誠)