「ピノキオの偉烈」

ピノキオの偉烈」(夏木マリ 印象派NÉO vol.4) 6月10、11日、J:COM北九州芸術劇場

 

 ピノキオの著名な場面をピックアップし、ダンスパフォーマンスと豊かな色彩の映像、音楽とを融合させた表現で魅せる。心躍る90分間だった。

 おもちゃの国、学校、「星に願いを」が流れる夜空、芝居小屋、大ザメ(もしくはクジラ)のおなかの中など、次々に場面が移り変わる。いたずらっぽく楽しいポップな表現もあれば、観念的で黒や灰色をベースにした色彩のシーンもある。背景の画像が浜辺の松の木だったり、人形浄瑠璃と操り人形のピノキオが相対したりするなど和のテイストも作品の味わいに彩を添える。

 ピノキオを演じる土屋太鳳のパフォーマンスに引き込まれた。妊娠中であるのを考慮してか衣装もふんわりとしたものに工夫され、操り人形らしいカタコトとした雰囲気のダンスや表情の作り方がうまい。終盤の人間になってからのなめらかな動きへの変化も印象的だった。ダンス集団「マリナツキテロワール」との激しくも息の合った動き、ピノキオの生みの親であるゼペット(夏木マリ)、ピノキオを見守り続けるコオロギ(マメ山田)や妖精、そしてずる賢いキツネと子分の猫との絡みも楽しかった。

 ラストでピノキオは舞台前方に座りこんで視線を宙に浮かせ一人たたずむ。重い音楽の中、照明が暗くなった背後の舞台ではダンサーたちがビニールを使ったパフォーマンスを繰り広げ、不穏な空気感を生じさせた。それは人間ピノキオの心象風景であったかもしれない。果たしてピノキオは人間の子どもになることができて本当に幸福だったのだろうか。操り人形であることから解き放たれて自由を得たはずのピノキオだが、その後、世知辛い人間世界で何を考えつつ生きていったのだろうか。子ども向けの単純なハッピーエンドではない物語の深みを演出の夏木マリは表出させたのだろう。落ち着かない余韻が心の中にくすぶり続けている。(臼山誠)