「TOTEM-真空と高み」

「TOTEM(トーテム)-真空と高み」(山海塾) 3月18、19日・北九州芸術劇場

 

 山海塾の舞踏を鑑賞するたびに哲学的な思索にいざなわれる。新作では舞台美術にまず目をひかれた。舞台中心部にトーテムポールを思わせる透明の高い柱のオブジェが建ち、その内側に三角柱らしき物が吊り下げられ揺れる。それは下方向への矢印にも見える。主宰の天児牛大が長年思索し続けてきた重力なるものの象徴だとすると、常に重力の影響下にある我々生き物の活動空間が舞台上に表現されていると見てもいいだろう。

 一方、舞台背後では大きなリングが二つ、開演から終演までの約80分間で、左右の端から真ん中方向へ少しずつ動いていき、交差し、そのまま反対の端へたどりつく。時の動きの視覚化とも受け取れる。ここで舞台の広がりは、時間と空間という形式の制約の下でしか物事を認識できない人間の時空世界となる。

 この時空のもとで、蝉丸をはじめ8人の舞踏手が、重力に対する肉体の抗い、地上や水中の無数の生物のうごめき、時空を超越した何ものかへの畏怖を次々に表現していく。そして、過去と未来の双方向へ流れる遠大な時間と広大な宇宙空間の中で、人間を含むすべての生物は自然のうちの卑小な一分節に過ぎないことが示唆される。動くリングは、あるいは生の輪廻と解釈しても良いかもしれない。

 終幕の暗転と同時に流れる讃美歌「アメイジング・グレイス」が印象的だった。卑小である個々の生命体にも実はそれぞれ希望が宿っていることへの感動が湧いてきた。

 北九州芸術劇場との共同制作で、今回が世界初演である。世界的な舞踏集団の新作を他の地に先駆けて鑑賞できたのは幸せなひと時であった。演出、振付は天児で、舞台美術は中西夏之。東京でも8月30日~9月3日に公演する。(臼山誠)